大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和60年(行ウ)148号 決定

申立人(原告) 林景明

被告 東京都文京区長

相手方 埼玉県川越市長

主文

相手方は、当庁昭和六〇年(行ウ)第一四八号事件の被告の訴訟手続を受継せよ。

理由

一  申立人(原告)の本件申立ての趣旨及び理由は、申立人は、当庁昭和六〇年(行ウ)第一四八号外国人登録原票訂正申請に対する棄却処分の取消請求事件(以下「本件訴訟」という。)の原告であるところ、右事件の被告適格を有する者が被告から相手方へ移転し、訴訟手続が中断したので、民事訴訟法二〇九条、二一六条に基づき、本件訴訟を相手方に受継させることを求めるというにある。

二  これに対する相手方の意見の要旨は、相手方は本件取消請求に係る処分の処分行政庁ではないうえ、本件訴訟に関与していないから、処分経過及び訴訟経過を熟知しておらず、したがつて、相手方に本件訴訟を受継させることは不適法であるというものである。

三  そこで検討すると、一件記録によれば、次の事実が認められる。

申立人は、中華民国政府発給の護照により本邦に入国し、外国人登録法の適用を受けている外国人であるが、被告に対して、同法四条による外国人登録原票の国籍の記載が「中国」とされているのは誤りであるから同法一〇条の二第一項に従つて訂正すべきである旨の右登録原票の訂正の申請をしたところ、被告は、昭和五九年八月二八日付けで申立人に対して、右記載が誤りであるとは認められない旨の通知をした。そこで、申立人は、右通知を行政処分(訂正申請の却下処分)であるとして、東京都文京区長を被告としてその取消しを求める本件訴訟を提起したものである。しかるところ、申立人は、本件訴訟の係属中である昭和六一年三月三日、その住所地を東京都文京区音羽二丁目二番八号から肩書地へ移動したため、同法八条一項に基づき相手方に対して居住地変更の登録を申請し、相手方は、同条四項に基づき被告に対して原告に係る登録原票の送付の請求を行い、被告は、同月六日、同条五項に基づき相手方に右登録原票を送付した。

以上の事実が認められる。

ところで、取消訴訟の係属中、被告である処分行政庁が存続しながら、その権限が法律の規定に基づき他の行政庁に移転した場合、その権限を承継した行政庁は当該訴訟における被告適格を承継すると解すべきであるが、法務大臣によつて指定された訴訟代理人がいない場合には(民事訴訟法二一三条、国の利害に関係のある訴訟について法務大臣の権限等に関する法律六条二項参照)、民事訴訟法二〇九条の準用により訴訟手続は中断するものと解されるから、右権限を承継した行政庁は訴訟手続を受継することを要するものというべきである。これを本件についてみるに、登録原票の訂正をする権限は、当該登録原票を保管する市町村長がこれを有するものというべきであるから、相手方は、申立人の居住地の変更に伴い、同法に基づき被告から申立人に関する登録原票の引継ぎを受けたことにより、右登録原票の訂正をする権限を承継したものというべきであり、したがつて相手方は、前記趣旨に従い、本件訴訟の被告の訴訟手続を受継すべき立場にあるものといわなければならない。

四  よつて、申立人の本件申立ては理由があるから、相手方に対し、本件訴訟の被告の訴訟手続の受継を命ずることとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 宍戸達徳 柳田幸三 小磯武男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例